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NEW VISION WEB版 vol.15
vol.15[掲載内容]
『会長からの手紙』
 イプラス脳力開発トレーニング協会 会長 志賀 一雅[ CLICK ]


対談「プロ野球選手におけるイプラストレーニングの意味と可能性」
 対談 志賀一雅 × 小久保裕紀[ CLICK ]


特別座談会 あの人に聞きたい・PART1[ CLICK ]

特別座談会 あの人に聞きたい・PART2[ CLICK ]

対談「新たな時代に向けて」
 対談 志賀一雅 × 大野 一道[ CLICK ]


『全国のイプラスジムより』イプラスジム広島[ CLICK ]

『イプラスキャラバン』[ CLICK ]

 会長からの手紙
志賀一雅 ご挨拶

この15号には豪華にお二方の対談を掲載していただきました。福岡ソフトバンクホークスの小久保裕紀選手と声楽家・芸術プロデューサーの大野一道さんです。それぞれ分野は全く違っていても、道を極めている人には共通の雰囲気があります。話しているうちに引き込まれてしまう。自分もその道の達人になったような気分にしてくれるのです。もちろんそのように意識してはいないでしょうが、なぜか共鳴でき共感してしまいます。立場が違うので考え方や表現は異なりますが、その根底に流れているものが共通なのかも知れません。道を究めているうちに我執から解放され、真我が現れてくるのでしょう。
ところで、いま大学院で二人の脳波の相関分析を研究しています。生い立ちも考えも違いますから、脳波は独立していて相関があるとは思えません。同じ作業や話し合いをしても、そのことで脳波が同じになるはずはありません。だからこそコミュニケーションが難しいのです。
ところが、なぜそうなるのか、そのメカニズムはまだ分かりませんが、二人の脳波の周波数と位相が揃うことを見つけました。しかも20秒くらい続きます。
20秒も続くと、偶然にそうなるのではなく、何かお互いに相互作用するような信号のやり取りがあるはずです。一般に言われる「気」の作用でしょうが、それでは科学になりませんから、計測できる実態を見つけなければなりません。
量子テレポーテーション(遠隔遷移)は理論的にも実験的にも確認され、量子情報は媒体を介在しなくても伝搬することは分かっていて、量子物理学の関心事にもなっていますが、ニューラルネットワーク(神経回路網)情報もテレポート(遠隔伝搬)するのではないかと思いたくなるような現象なのです。しっかりと管理された条件で実験をさらに行い、たくさんのデータから判断する必要がありますが、以心伝心や阿吽の呼吸、黙って座ればぴたりと当たる、などを始め、遠隔ヒーリングを解明する手がかりになるかも知れません。
 お二人との対談の最中、表現や考え方が違うのに、なぜか気分として共鳴でき共感してしまうのは、そばにいることで脳波の周波数と位相がときどき揃うのかも知れないと思いました。

さてこの度、ニュービジョンの充実をはかるためにリニューアルすることとし、今号をもって休刊させていただきます。読者の皆様におかれましては協会ホームページなどに掲載される情報を引き続きご覧いただければ幸いです。

イプラス脳力開発トレーニング協会 会長
志賀 一雅

 対談 志賀一雅 × 小久保裕紀
「プロ野球選手におけるイプラストレーニングの意味と可能性」
 シーズンを振り返って
志賀 実はこの企画は、リーグ優勝おめでとうございます! という所からスタートするつもりでしたけれど・・・ 残念ながら今年は最下位になってしまいましたね。でも、交流戦では優勝して・・・ 9月ころまではチームは順調でしたよね?
小久保 そうですね・・・交流戦を去年は失敗して、今年は上手くいって優勝できたし、「これで乗っていけるだろう」と思ったら、その後信じられない位に失速して・・・。
志賀 墜落してしまった。素人がみても信じられない位にピッチャーは打たれ、バッターは打てないという状態になって、王監督の「選手達にプレッシャーを与え過ぎてしまった」という談話でしたけれど、やはりプレッシャーを相当感じましたか?
小久保 僕個人としてはプレッシャーは感じなかったのですが、王監督の状態というか、その時の顔色だったり、今日は体の調子はどうかなっていう目ではいつも見ていました。「プレッシャーを掛けすぎた」という発言は、王監督が僕らをかばって言ってくれた言葉だと思います。僕らがしっかりしていなかったからだと思っているんです。
志賀 そうですか、一人一人は力があるのに、それらを結集したチームプレイの難しさがあって、波に乗れるときと乗れないときが極端に出てしまう。
小久保 自分たちも「ホークスはちゃんとやるべき事をやって12球団の中でも胸を張れる強いチーム」という自負をもちプレイしていたのですが、やはり結果が全てなので、まだまだ改良する余地があり、改めて考え直す時期なのだと感じています。
 北京で蝶々が飛ぶとニューヨークで嵐になる
志賀 んなことも「結果には必ず原因がある」という「因果律」が働いていて、それが単純なら勝利の方程式が作れるけど、そう単純ではない。だから、うまくいかない原因をいくら探ってもなかなか分からないでしょ? 同じようにやっているのになぜかうまくいかない。逆に悪いと思っていたのに結果は案外うまくいってしまうこともある。
小久保 ええ。
志賀 人間の行動とか自然現象も含めてだけど、結果からは原因を見つけることはできないんですよ。「※カオス」と呼ばれる現象があって、現代科学の注目の的ですが、きっかけは気象物理学者の※ローレンツがコンピューターで天気予報のための数値計算していたときにとんでもない結果が出てしまった。気象現象は流体力学に基づく運動方程式を解くけど勝利の方程式と同じで、単純なようでいて単純でない。晴れるはずなのに台風のような大雨になってしまった。勝てるはずがとんでもない負け方をしたのと似てますね。原因を調べると、方程式に代入する数値が実測値に対してほんの少し違っていた。無視してもいいほどのわずかな違いだったけれど結果に大きく響く。その変化をグラフに表すと奇妙な形をしていて、蝶々のような形なので※ローレンツアトラクターと言い、それを比喩的に「北京で蝶々が飛ぶとニューヨークが嵐になる」という有名な表現があるんです。まさか北京で蝶々が飛んでも、それが原因でニューヨークが嵐になるとは思わないじゃないですか、そのくらい考えられないことが起きるんですよね。
小久保 へえ、面白いですね。
志賀 だから、今年のホークスは調子よく進んで、そのままのペースなら間違いなく優勝するだろうって誰でもが思っていたじゃないですか。ところが最下位になってしまった。北京で蝶々が飛ぶような何かがチームの中にあったんですよ。監督が咳きをしたとか(笑)。その位のわずかな事が原因なんですよね。そうなると原因をいくら探っても、まさか北京で蝶々っていう所まではいかないでしょ? もっと常識的な原因で納得してしまう。反省は大事だけど「こうだったから優勝できなかった」と、そこを改善してみても違うかも知れない。だから原因を探さないで、もっと前向きに「これからはこうやりたい」という気持ちで、気分一新して進んだ方がいいんじゃないかと思うんですが・・・・。
 スランプからの脱出
小久保 そういう意味では、来シーズン監督が変わる事によって、新しい監督がどういう風を起こしてくれるかものすごく楽しみではあるんですよ。僕が今まで王監督の下でやってきたことを土台にしながら、来年新しい監督の下で僕がどういう働きや動きができるのかなっていうのも楽しみですね。
志賀 それはいい事ですよね。期待感というか、いい方向に希望があると力が出てきますし、ときめきとかワクワク感が必要条件かなって思いますね。この間、打撃が低迷していたときに、小久保さんとメールをやり取りした中で「ある種の感触、手掛かりが掴めたような気がして打てた。結果がついてくると自信がつきます」とありましたよね。それって幻想を追いかけてるんじゃないかなって思うんですけど。スポーツ選手はどなたもそういうものを拠り所にして自信を高めるんですか? ジンクスとかゲンをかつぐとか。
小久保 自信がつくというよりも、悪いときは原因探しに走るんです。その原因は今まで蓄積している自分の中の引き出しってあるじゃないですか。「以前こういう悪いときにはこういう事をしたからこういう風になった」っていう。でも引き出しが当たらないことも多くて、そこに時間が掛かるとスランプになって悪い時期が長くなるというのがほとんどだと思います。それはある意味プロ野球の世界では常識でもあるので、僕も原因探しをする事に対しては心から否定できないんですよ。でも自分の中で疑問も感じて「昔のビデオを観てあの時の打ち方に戻そう」というのはやめました。それは王監督からも「その当時の自分には戻らない、考え方も経験も相手ピッチャーも変わっているし、自分の筋肉も変わっている。2008年は2008年型のフォーム、2009年は2009年型のフォームを作り、その時その時に一番良い打ち方を自分で作れ」とアドバイスをもらいました。
志賀 そこそこ、今の話は全ての人に当てはまると思いますよ。分野は違ってもスランプというか、こんなんでいいんだろうかって悩むときがありますよね。こんな時はたいていなぜうまくいかないのかの原因を探すでしょ? それが分かっても自信は高かまらないから思い切って行動ができない。自信というのは自分の可能性を信ずることだから、過去の体験は畑の肥やしにして、これから先のことを考えた方がいい。
小久保 そうですね。
 釈迦の悟り?
志賀 ところで、今後はどのようなご予定ですか?
小久保 とりあえず屋久島に登る予定です。監督も変わるし自分自身のけじめをつける為に今月の中旬に休みがあるので屋久島に登ろうと思っているんです。
志賀 れはいいですね。自然の息吹に触れる。
小久保 僕は昔から「自分がやるべき事に対して決して妥協しない」という姿勢でやってきたんですよ。でも今年のある時期から「あえて逆をしてみよう」と思い7月に入ってからウェイトトレーニングをやめました。ただ、2ヶ月やめてみた中で真っ直ぐが打てないのでトレーナーに相談すると「この筋肉では打てないですよ」って言われました。今まで細い体を酷使して筋肉を作ってきたんですよ。毎年オフにアメリカに行って、何をしてるかっていったらウェイトトレーニングで筋肉を作り、その筋肉の貯金で1シーズンを戦う。シーズンが終わったら筋肉がペラペラになる。そしてまたオフに筋肉の貯金をするっていうサイクルで今までやってきました。それで7月にウェイトトレーニングをやめてから、調子が落ちてきたときに、一番近いトレーナーの二人に同じ時期に同じ相談をしたんです、そしたら二人とも同じ答えが返ってきたんです。ずっとやってきたことを急にやめて脳がパニックを起こしていたようなんですよ。イプラスの美濃部トレーナーに眼のチェックしてもらった時も「眼の状態は悪くないが伝達が遅くなっている」という指摘をもらいました。それがわかったのも一つの収穫です。だから来年はちゃんとウェイトトレーニングをします!(笑)
志賀 釈迦が悟りの境地を求めて難行・苦行を徹底的にやって骨と皮になってしまった。それでも悟れないので修行をやめた。ゴロゴロ寝ていて何もしなかった。でも何もしないのもマズいので適度の修業を始めた。そこで中庸の精神を悟った。似ていますね(笑)
小久保 僕はそこまでではないんですが(笑)、「こんな自分が居たんだ」ということを感じましたね。新しい発見でしたね。
 「スピリチュアル」な現象
志賀 そう、「感じる」ということがポイントですよね。「考える」ことはもちろん大切だけど、そろそろ「考えない」で「感じる」、それも正しく感じるような脳の働きにするといいですよね。そのためには練習のときに徹底的に考える。試合では何も考えずにプレーできるように徹底的に考えて練習する。そうすれば無心で試合に臨めるでしょ?
小久保 そこは難しいですよね。「よく考えてプレーしろ!」って叱られますから。
志賀 人間の行動にはフィジカルとメンタルな面があるじゃないですか、特にスポーツは顕著で、それがうまく合致すれば成果が出ますよね。ところがオリンピックでもそうだしご自身でも体験されているでしょうが、フィジカルとメンタルだけではない、何か劇的なスピリチュアルなことがあるでしょ?野球の女神が微笑むとか、ヒーローになる選手には「なんでこの場面が自分に巡ってくるの?」というようなことがあったり。
小久保 ええ。それは結構ありましたね。
志賀 このスピリチュアルな現象は、まだ科学が手がけられない世界ですね。「考える」ということはフィジカルとメンタルの接点を調整する。それはそれでいいけどスピリチュアルとメンタルの接点に壁を作ってしまう。そこで「考える」ことから「感じる」ことへ切り替える。感じるっていうのは理屈なしだから「うまくいきそうな気がする」となる。それを感じるためには「無心で臨む」しかない。ただ残念ながら今の科学で証明できない。
小久保 なるほど。
志賀 幸い最近の認知科学が少しずつスピリチュアルな現象も科学的に扱おうという動きもあるんです。そういうのを見ていると、スポーツの世界はメンタルな部分も大事だけどもスピリチュアルな部分がもっと大事という気がするんですね。感動を与える立場ですから。小久保さんご自身もものすごい感動体験をお持ちじゃないですか。私が知っているのは、ダイエー時代に大ケガで一年間棒に振って、巨人に移籍してその復帰の最初のオープン戦で3月6日だったかな、ホームランを打ったでしょ?
小久保 そうです!人生の中であのホームランだけは自分の力ではないって思いました。「あれは野球の神様からのご褒美だ」と思えたんです。あり得ないですもん、3月6日にケガをして次の年の3月6日に福岡で試合がある事も不思議ですし、僕はジャイアンツのユニフォームを着て、しかも一番可愛がっている斉藤和巳がピッチャーじゃないですか。こんなことはあり得ないです、そこでホームランを打てたんですから。「一年間リハビリをアメリカでコツコツ頑張ったご褒美としてこのホームランを貰えたんだな、ありがたいな」という思いが強くて、あの時は「嬉しい」というよりも「野球の神様がいるんだ」という感覚の方が大きかったです。後にも先にもあの1本だけです。
志賀 そのドラマへの前触れが巨人への移籍でもあったわけでしょ? そして巨人とダイエー(当時)との試合が組まれて、しかも福岡ドームで!
小久保 しかも一番可愛がってる斉藤和巳からホームランを打ったわけですから。
志賀 これは・・・ スピリチュアルな世界のストーリーですね。すごいなぁと感じました。でも「これは後にも先にない」と思っては駄目ですよ。これからもいっぱいあるので(笑)。
小久保 はい(笑)。
志賀 スピリットって、「ファイティングスピリット」とか「パイオニアスピリット」とか英語ではよく使いますよね。闘魂とか開拓者魂かな、意欲が湧き出てくる感じ、マグマが湧き出てくるという感じ。よく「霊的」とか表現するけど、それではおどろおどろしい感じになってしまう。「目に見えないところから湧き出てくるエネルギー」というような感じがスピリチュアルというものの本質のような気がしますけどね。だから社寺仏閣でいかに祈っても、お供えしても、その根源には触れられない。基本はフィジカルにもメンタルにもしっかり磨き上げられた人にのみ乗り移るものだと思うんです。
小久保 なるほど。
 スポーツ界の「常識」は脳科学の「非常識」?
志賀 スポーツ選手には失礼な表現ですが、スポーツ界というか野球もそうだし、先日の勝利で世界ランキング入りしたボクシングの升田選手もそうなんですが、「皆さんの常識は脳科学からいうと非常識」というか、脳科学からは考えられない事をしますね。だけど、「それをやっているからうまくいくんだ」という意識になっている。それはそれで悪いとは言わないけれども「脳科学の常識を入れたらもっと変わるよ」と思うのですが・・・。
小久保 ええ。
志賀 もちろん今までの経験は大事だから、それを宝物としてその常識をある程度は守りながら、少し脳科学的なアプローチもトライしてみるといいと思います。
小久保 そういう意味で来年からイプラスジムに今まで以上に通わせてもらおうと思っています。今年もジムに行こう! と思った時に練習が入ったり、怪我をしたりして・・・。やっぱり野球の動きは特殊なんですね、同じ方向への視線や動きが多いですし、放っておいたら体のバランスが悪くなっているんですね。
志賀 そうですね。特に眼は鍛えなければいけない。野球は厳しい視覚能力が要求されるスポーツの代表だと思いますよ。だって速いですもん。ピッチャーが投げてから手元に来るまでに0.4秒を切るわけですよね。
小久保 ビジョントレーニングをやってみると、眼のバランスが悪いときは成績が悪いし、本当にビジョントレーニングは重要なんですよ。
志賀 卵と鶏じゃないけど、成績の悪さがビジョンに反映してくるでしょうね。じゃあどうすればいいかといったら、できる所からいじればいいわけで(笑)。
小久保 はい(笑)。
 スポーツ界の「常識」は脳科学の「非常識」?
志賀 あと、小久保さんは勉強家だから本もよく読むし、色々体験もされている。野球以外にどんなことに興味をおもちですか?
小久保 う~ん、そうですね、僕は「ストイック」というか「ドM」というか(笑)自分を追い込むのが結構好きで、志賀先生に「修行に行きたいからお寺を紹介してください」と相談したときに、お寺ではなくて内観を紹介してもらったじゃないですか。動機は不純でしたが、僕は内観で1週間座ったら自信になると思って、あんな環境に自分は1週間も行ったんだよっていう自信が欲しくて行きました。
志賀 最初は辛かったでしょう? あんな狭い所に閉じこもって、日ごろ体を動かしているスポーツ選手がじ~っとしているんだから、拷問みたいなもんでしょ?(笑)
小久保 最初は確かに(笑)。内観のプログラムの中に「0歳~3歳までの自分を調べる」というのがあるんですが、最初は「そんな記憶があるわけない」と思うじゃないですか。でもやっているうちに最初は全く思い出せなかったんですが、だんだん思い出せるようになってきて、まずそれが不思議でした。そうしたら小さい頃のふとした思い出が沸々と出て来る中で、昔母が毎日用意をしてくれたお弁当のことを思い出したんです。
志賀 愛情のこもった手作りのお弁当でしょう?
小久保 そうなんです。その中に必ず僕の大好きな鰹節を入れてくれてたんですね、白いご飯だけなら楽じゃないですか、でもごはんとごはんの間に僕が好きな鰹節を醤油につけて入れてくれて、そのごはんの上に梅干しを置いてくれていたんです。それって手間が掛かるじゃないですか、内観をしていてそういうことに気づき出したんですよ。母は薬剤師の仕事で朝早くから出ていって働いていたんですが、夜中も夜間勤務があって、そんな時は夜中寝ないで会社に行っていたんですよね、それが月に一回はあって、それでもちゃんと弁当を作ってくれたなっていうのを思い出した時にはすごい愛情を感じました。そういうのって内観に行かない限り、全く思い出さないまま通り過ごしていたと思います。そこで「母親って偉大やな」とつくづく感じられました。
志賀 同じような体験をされた方が大勢いて、今まで全く忘れ去っていた宝物、それに触れて喜びというか、お母さんを憎んでいた人でも、子供の頃のお弁当を思い出して憎さが消えていく、むしろ感謝に変わる、そういう部分もありますよね。
 この一瞬を生きる
志賀 内観を体験された中で「この一瞬を生きる」という言葉を座右の銘にされましたね?
小久保 はい。瞑想の森の清水所長に「使わせてもらっていいですか?」とお聞きしたら、「どうぞ、どうぞ使って下さい」と言っていただいたので。
志賀 深い言葉ですよね。
小久保 ええ。自分で体感してこれだって思った言葉だったので、今「この一瞬を生きる」という事に集中し全身全霊を傾けていたら、別にその結果がよかろうが悪かろうが絶対に後悔する事はないと確信しています。僕らの仕事はその日に結果が出てしまうし、数字が悪いと人格まで否定されてしまうこともある世界なので、どうしても結果を考えるじゃないですか、その中で色々な言葉はありましたが「この一瞬を生きる」というのが「これだ」と思えたので座右の銘にさせてもらいました。
志賀 柳田先生も清水先生も、こんなに活かしてもらえていることを知ったらお喜びだと思います。
 「よかった、ありがとう」の活用
志賀 そうそう、この対談で聞こうと思ってたんですが、結果はどうであれ「よかった」と思えれば、だんだん主観的な満足から客観的な満足を実現するように力が働いて、結果としていい方向に向かうけど、スポーツ選手はそれができないでしょ? 特に小久保さんは妥協せずストイックに自分を追い込むタイプですから。そのあたりはどうですか?
小久保 志賀先生に言われてからずっとやっているのは夜寝る前に「よかった、ありがとう!」です。たとえ4打席4三振の日でも、その思いのまま寝るっていうのはなくなりました。また「緊張をした後にリラックス」というメンタルトレーニングも、ここ何年ずっとやっていますね。だから僕がネクストバッターボックスで歯をくいしばって手を握っている時はトレーニングを実践している時だと思って下さい(笑)。
志賀 なるほど(笑)。それは続けることで反射ができ、無意識的な反応となりますから、今後もぜひ続けて下さい。ところで、印象としてケガが多いですよね、まだね。
小久保 そうですね。僕は7回手術してます。7回手術をしても、ちゃんとグラウンドに戻っているっていうのが自信になります。リハビリをキッチリとやりやるべき事をしたらグラウンドに戻れるっていうのを他の選手にも示せれば、と思っています。
 ~小久保選手からのメッセージ~
志賀 あと、全国のイプラスジムのトレーナーにメッセージをお願いできますか?
小久保 僕はファンの方に野球を通じて感動を与えることができるプレイをいつも心がけています。だから、イプラスジムのトレーナーの皆さんにも会員さんに感動を与えられるジム作りを全国展開してほしいなと思います。小さい事でも今までできなかった事ができた喜びとか、数字が上がっていく喜びなどの「自分を向上させたい」という会員さんの思いをサポートできるようなトレーナーが良いと思います。背中をそっと押してあげられる様な!どんどん会員さんを押し上げてあげてください!
志賀 最後にイプラスジムの会員の皆さんにメッセージをお願いします。
小久保 イプラスジムに来られる方は、「今後の自分自身に期待している」方だと思うので、トレーニングで自分自身を高めて、それぞれの分野でリーダーになって引っ張っていける様な人になって下されば嬉しいです。僕も引き続き一生懸命ジムに通います。(笑)
志賀 まだまだお話をお伺いしたいのですが、またの機会にしましょう。来シーズンのご活躍をイメージしています。今日は貴重なお話をありがとうございました!
小久保 ありがとうございます。
 対談 雑感
志賀 小久保選手とはかれこれ6年のお付き合いで、このことは人にあまり話さなかったし、彼のパーソナリティーがそうさせているのだけど、個人的な親しさが強くて、友達感覚になっていました。今回オフィシャルに対談を進めて、目の前にすごい人がいることを思うと・・・ でも、改まって丁寧な言葉遣いや態度になると、お互いに調子が合わないので、いつものような会話になりました。皆さんがご覧になって、失礼ではないかとハラハラされたことでしょう。これでも校正で多少の修正を加えましたが、実際はもっと友達感覚で、辛らつでした。小久保選手は福岡にお住まいなのでイプラスジム福岡の教場をお借りしての対談でしたから、そばに中村チーフトレーナーとマネージャーが見ていて、もっとハラハラされたと思います。
大選手ですから、もちろん信念があり、世界観や人生観、価値観があるはずです。でも私がさりげなく話したことはほとんど実行してくれています。寝るときの「よかった、ありがとう」はいまだに実行しているようですし、緊張→リラックスは実践の場でもやっていて、まさか内観に行くとは思わなかったが二度も行き、また行くつもりだそうです。
紙面の都合で対談の半分はカットしましたが、彼の人となりが人気の秘密だと思います。今年のオールスターでは1塁手としてファン投票がNo.1になり、11回も出場したことや、少年野球の指導、講演活動などたくさん聞きました。
これは私の個人的な趣向ですが、一番彼を気に入っているのは、プレー中にガムを噛まないことと唾を吐かないこと。皮肉なことにテレビカメラが大写しするときに限って唾を吐く場面が写る。大写しというのはカメラマンの感性でしょうが、ここ一番の注目すべき場面で、みなが注目しているそのときに、バッターボックスで、ピッチャーマウンドで、なぜ唾をはくのかな?子供たちも見ているよ!と言いたい。ガムを噛むとリラックスできると言うが、噛まなくたってリラックスできるよ!彼は勝っても負けても、グラウンドを去るとき脱帽して敬礼する。それをカメラが写している。カメラマンもちゃんと分かっているんだなぁと嬉しくなる。プロだから高校野球と違ってキャプテンが礼儀作法まで指導はできないけれど、彼が率先垂範していれば、そのうちいいモラルが広がるかなぁと期待しながらの対談でした。
 特別座談会『あの人に聞きたい』イプラストレーニングで獲った日本タイトル!
今回は去る9月に日本タイトルに挑戦し、見事チャンピオンベルトを手に入れた野中悠樹さんとマネージャーの森山貴至さん、イプラスジム担当トレーナーの和田錫彦さんをお招きした座談会にて、今までのエピソードなどを大いに語っていただきました。
参加者 野中 悠樹 日本スーパーウェルター級チャンピオン
森山 貴至 協力サポーター代表
和田 錫彦 イプラスジム担当トレーナ
 日本タイトル奪取の秘話
~今日はよろしくお願いします。初めに日本タイトルおめでとうございます。
野中 ありがとうございます。でも今は次の防衛戦も決まっていますし、すでに戦闘モードに入っています。
~ 喜びに浸っている間もないですね。
野中 そうですね(笑)。
~では、試合前の状況などはどうでしたか?
野中 今回は父親の病気という状況の中で、自分が試合で勝つことが父の治療につながると思いながらやりました。時々悩む事もありましたが、イプラスジムでのトレーニングが自然とポジティブでいれるようなプログラムだったので落ち着いて練習ができました。
~今だから明かせるタイトルマッチでのテーマとかはありましたか?
和田 テーマは丸秘です(笑)。結果論で言うわけではないですが全て狙い通りになったと思います。急遽今回の日本タイトルマッチが決まった流れも、その後のさまざまな事も本当にいろんな意味で「ついて」いましたし、ここまでついていたら、これは確信のレベルで「これはタイトルを取る為に全部つながっている」と。
野中 和田さんが自分で試合を実践しているかの様に毎回言ってくれて、日に日に自分が向上していくのがわかりました。
~今回の試合では4Rに足をケガされて結果的には剥離骨折だったそうですが。
野中 足を捻ったのですが、試合中は「ちょっと痛いな」という感じで、そこまで痛くなかったです。試合の結果が出て勝利者インタビューが終わった直後に突然痛みがきて足を引きずって歩く様な感じになりました。
~試合を観ていても全然わからなくて、あとから骨折をしていたと聞いて本当に驚きました。
和田 僕も本当にびっくりしました。
 イプラスジムに入ったキッカケ
~今回野中さんがチャンピオンを取って、イプラスジムでも昔話が・・・ 恐ろしくシンガンの数値が悪かったそうですが(笑)。
野中 悲惨でしたね・・・(笑)。
~逆にこの数値でボクシングをやっていて危なくないのかなと・・・間違っていなければ1分間で35~36回とかそういう数値でしたよね?
野中 はい(笑)。
~その時の野中さんは、今後の進退を考えておられる時期で「とにかくできることを全てやってみて駄目だったら引退」という状況でしたよね。その当時を知っている我々からすれば、今回のタイトル奪取は本当に感極まるものがあります。当時の野中さんのランキングはまだすごく下で、でも今はその頂点におられる。本当に嬉しいです。
野中 ありがとうございます。
 チャンピオンという立場
~今回チャンピオンになられて尼崎ジムで一緒にトレーニングをしている仲間の皆さんはすごく喜ばれたのではないですか?
野中 はい。12年間ただボクシングが好きで続けてここまで来たのですが、「続けていればこういう結果も出せるよ」ということが後輩に伝われば嬉しいです。
~ご家族とか周りの反応はどうですか?
野中 僕が「12年間がんばった」ということよりも、身内とか周りの人たちが12年間本当に辛抱してくれたなと思います(笑)。これを機に親戚一同が集まりましてみんなが祝ってくれました。親戚が集まる事はお葬式くらいだったので、今回は楽しい会で集まれて僕に感謝していると言ってくれた事がすごく嬉しくて、そういう意味でもタイトルが取れてよかったと実感しています。
~ボクサーとして年齢的にはベテランと言われる域に入られた中で今回チャンピオンになられた事は同年代のボクサーの方たちにも希望を与えましたよね。
森山

続けるというのはとても大事だと思います。自分の気持ちを切ってしまい辞める理由付けをするのはいつでもできますから。目標達成のイメージトレーニングをイプラスジムで指導していただいて現在の結果があると思います。

 「絆」と「陰徳を積む」ということ
森山 試合が終わって血だらけの野中が一番最初に抱きついたのが和田トレーナーだったんです。男同士でひしひしと抱き合っていました(笑)。
野中 そうでしたね、一番最初は和田トレーナーでした。和田さんとは本当の意味の師弟関係といいますか、メンタルな部分のつながりというか「絆」をすごく感じています。それが無意識にあの場面で働いたんだと思います。端から見たら気持ち悪かったんでしょうけどね(笑
和田 普通で考えれば年齢的には下り坂ですよね、でも出会って2年半で明らかにボクシングは進化していて、今からもどこまで進化していくのかというのが本当に楽しみです。
森山 周りのボクサーが野中君の試合の映像を観て「野中ってここ1~2戦でボクシングが上手になったよね」と言っています。ボクシングのプロが見ても技術力とか試合運びなど総合的なボクシングスキルが、キャリアの積み重ねとイプラストレーニングによって非常に上がってきていて、端から見ても「おっ」というのは感じているみたいです。
~志賀会長が「フィジカルやメンタルはトレーニングで向上させることができるが『何故か誰かが助けてくれた』『なぜかそういう場面に出くわした』とかいう、自分のがんばりではない部分で、物事が好転するには、『スピリチュアル』的な要素が働いている。じゃあそこに対して自分で何ができるかといったら『人が見ていない所で良い事をする』という、所謂『陰徳を積む』というようなことを生き方の上でやっていくという事だと思います。」とおっしゃいます。
一同 なるほど
~そこで、いつも和田トレーナーが「野中さんはほんまにええ奴なんですよ!」と何度も私に言ってくれるのですが(笑)、私も野中さんの人柄に触れさせていただいて、いろんな意味で野中さん自身がそういう「スピリチュアル的な何か」を引き寄せてきたというのがあるのかなと感じました。
和田 僕からしても最初は「この人ボクサーとして大丈夫かな?」とも思ったくらい(笑)人間的に本当に尊敬できる「人格者」で、それが大阪弁で「ええ奴」という表現になっていたのです。野中さんと接していると「この人のために何かやってあげたい」という思いが出てきます。その極めつけが、今回試合で剥離骨折をしたのに試合後に取材も受けて、それから足を引きずって色々な人に挨拶に行くわけですよその様子をみていたらほんまに「ええ奴やな、徳があるな」と・・・。
野中 ドクターは早く縫いたいから「ええかげん戻ってきてくれ!」と怒っていました(笑)。
~試合の結果は野中さんの努力の賜物だと思いますが、マッチメイクなどは自分の努力ではどうしようもない部分ですよね。
森山 完全に他力の部分ですよね。それと陰徳の話で結びつけるのであれば、仕事が朝の8時から始まるのであれば自分は7時半から出勤して掃除をするとか、そういう物の積み重ねが結果につながったという事なのではないでしょうか。
野中 実は昨日自分の母校で講演をしたんですよ。
~講演は初めてですか?
野中 昨日の様な大人数の前で講演をするのは初めてです。
~今号の小久保選手と志賀会長の対談にもありますが、小久保選手もオフの時はできる限り小学校などに行かれているようです。でも小学校を訪問して帰ってきたら逆に自分が元気をもらっていると話されていました。野中さんも今回は母校で講演会をされたんですね。では次回はぜひイプラスジムのトレーナーにも講演会をお願いします!(笑)
野中 いや~(笑)。
 チャンピオンからのメッセージ
~今まで色々なスポーツ選手とお話させていただいたのですが、現役を退かれた皆さんは「自分が現役の時にイプラスジムと出会いたかった」と必ずおっしゃいます。そういう意味では野中さんが現役の時にイプラストレーニングと出会って少しでもプラスになれた事は本当にうれしく思います。
森山 野中にとってイプラスジムとの出会いは本当に良かったと思っています。
~今回、野中さんがチャンピオンになられて、多くの方に勇気や希望を与えられたと思いますが、今イプラストレーニングをしている若いボクサーの方に野中さんからメッセージをお願いします。
野中 自分自身がそうなのですが、「自分大好き」というところがあって苦しくても楽しくても自分が大好き!(笑)「自分自身を裏切らない」とか「自分がやっている事を誇りに思う」ということ。そして「自分は必ずチャンピオンになれる」という事を信じ続けていました。
和田 同じ時期に僕の母親も病気をして、野中さんのお父さんも病気をされたのですが、お互いに「治る」と信じて病気を克服する事ができました。だから「本当に疑う余地もなく信じ続ける」という事が大事だと思います。
~では次にイプラスジムの会員さんにメッセージをお願いします。
野中 そうですね、信じ続けていれば叶うというか、周りの会員さんでも色々な願望が実現しているのを間近で感じましたので自分も勇気をもらいました。イプラスジムに通っているという時点で、自分の夢に対し一歩踏み込んでいるんだと思います。
和田 野中さんやジムの会員さんとも話すのですが、まずは自分の未来に期待し良いイメージをする。現実には何か大変な事も起こるかもしれないけれど、それでも良くなるようにイメージをし続けることで夢が叶う。現在自分が置かれている状況には必ず何か意味があるように思います。一見馬鹿らしく遠回りにみえることでもです。
野中 その通りです。例えばイプラスジムの会員の皆さんが、この座談会の記事を読んでいる事自体に、もうすでに意味があるという事だと思います。それ自体で夢が半分実現しているように思います。読んでいるだけでです!そこからのプラスαは本人がどう感じるかだと思います。
 未来に向けて
~それでは最後に今後に向けて抱負をお願いします。
森山 僕が期待をしなくても彼は答えを出してやっていってくれると思います。そして「イプラスジムのトレーニングがスポーツ選手などの限られた人たちだけの物ではない」ということ、つまりイプラスジムは社会人、学生、主婦、日本の経済を支えている人たちの為の学習機構であり、その方々が満足できるプログラムだということを野中のサポートを通じて、より多くの方にお伝えしたいと思います。
~それでは最後に野中さん、お願いします。
野中 いきなり「世界を取るよ」とか考えてしまうと僕はダメになってしまうと思うので(笑)一戦一戦次の試合を勝っていく事で結果を出していきたいです。和田さんからは、「東洋太平洋のベルトを意識してみるのも、ありやで~」という声はいただいているのですが(笑)和田さんのアドバイスを聞きながら今後を目指します。
~良いイメージをして誠実に生きる事の積み重ねが結果につながるということを改めて認識させていただきました。貴重なお時間をありがとうございました。

インタビュー 斉藤 義生

野中 悠樹
第29代日本Sウェルター級チャンピオン 1977年12月10日。出身地は兵庫県尼崎市 プロデビュー戦 1999年11月22日。
森山 貴至
野中悠樹選手の協力サポーター代表。地域においてプロ選手のメンタル、フィジカルにかかわらず、あらゆる角度からのアドバイザー的立場でサポートしている。
和田 錫彦
⑭日本脳力開発研究所スタッフ。イプラスジムトレーナー。ジムにて学生からシニアの方にイプラストレーニングを指導。野中選手への脳のトレーニング指導を二人三脚で行っている。
 特別座談会『あの人に聞きたい』イプラストレーニングを縁に結成した "チーム升田"
イプラストレーナーでありプロボクサーである升田選手が2008年8月11日元2階級制覇の世界チャンピオン:ワンデイ・シンワンチャー選手との世界前哨戦に3-0の判定で見事勝利し世界ランキング入りを果たしました。8月の試合を振り返りながら、今後の新たな挑戦に向けてトレーニング中の升田選手・松井トレーナー・美濃部トレーナーにお話を伺いました。
 「チーム升田」とは?
~8月11日世界前哨戦勝利おめでとうございます。
升田 ありがとうございます。
~升田選手から感想をお願いします。
升田 勝ちという結果を出せてよかったです。プレッシャーもありましたが、激励会やフィジカル・メンタル面でバックアップしていただいた方に、僕が恩を返せるのは勝つことだけなのでそれが果たせてほっとしています。
~勝利へのプロセスを一番知っている松井トレーナーはいかがでしたか?
松井 激励会でもお話しましたが、10回やったら10回負ける相手(笑)。十両が横綱に挑戦という状況でしたからトレーニング前は緊張がありました。それを跳ね返せたのは今後のためにもよかったですね。試合については、勝てたことはもちろんうれしいですが、美濃部さんがセコンドに入り3戦目でやっとプロのチームとしてきちんと試合に臨めたことが一番よかったですね。
~イプラストレーナーという立場でセコンドに参加された美濃部さんはいかがでしたか。
美濃部 そうですね。やっと松井さんに認められてうれしいですね(笑)。一同 (爆笑)
美濃部 それと勝ったから言えることですが、やはり楽しかった!
松井 チームとして機能していると実感したのは試合のインターバルの時でしたね。ラウンド中に美濃部さんと作戦を立て、インターバルで効率よい指示を升田に伝えられたことは試合に大きく影響したと思います。
升田 以前はインターバルのアドバイスは聞いてもすぐ流れていたんですが、今回はきちんと理解できていました。今思うと試合で全体の組み立てを考えながら、戦えるようになったのは、イプラスジムに入会してからですね。
松井 インターバルは、とても緊迫した時間です。その中でクールな話し合いができるというのは、イプラスで頭を切り替える訓練を受けていたからだと思います。結果論ですけれど、私がイプラスジムの会員で、升田もイプラストレーニングを受けていて、美濃部さんがトレーナーだったから上手くいったと思います。
升田 松井さんがすごいのは、最初に僕がイプラストレーニングをしていると伝えたとき、ご自身も取り入れてくださったところです。
~他のトレーナーだと、「そんなトレーニングをしている暇があったら走れ」と言われていたかもしれないですね。
升田 かも知れないです(笑)。選手と共感してくれるトレーナーは大きいですからね。
~しかし、ボクシングのセコンドに脳力開発トレーナーがいてアドバイスなどをするのは、少し大げさですが世界中でこのチームだけでしょうね。
升田 そうだと思います。
~それをOKされた三迫ボクシングジムの懐の深さを感じます。
 イプラストレーニングがある風景
升田 メンタルトレーニングは充分していたのですが、やはり大きな試合ですので恐怖心がかなりあったんです。でも脳波はとてもいい状態だったんです。それで前日計量のときに初めてワンデイ選手に会った時に何か相手が小さく見えたんです。普通2階級制覇したチャンピオンに会うと、目には見えない脅威を感じたりするんですが、思ったより体型が細くあまり強い選手のオーラを感じなかったんです。そして(笑)握手をすると手が冷たくて、思わず松井さんに目配せしました。
松井 確かに冷たかったですね。手を握って目を見て「これは大丈夫。いける」と直感しました。
~志賀先生は、「対戦相手の手が冷たかったらチャンス、手が温かかったら警戒したほうがいいよ」とおっしゃっていますよね。
美濃部 はい。松井さんは「チーム升田」を作りたいと強い気持ちを持ってイプラスへ入会されました。今回は過去の歴戦で升田君の体がぼろぼろという状況の中から、加圧トレーニング、カイロプラクティック、さらには鍼灸に至るまで、チームを作った力はすごく大きいです。
~ 新たな試みですね。
美濃部 はい。 でも、升田くん自身は「自分の体が強く大きくなった」というフィジカルからくる自信以上にメンタルの不安が強かったんです。そこで僕らは常々最悪のパターン「1ラウンドでノックアウト」される事も考えて対策を練り、升田くんには、強い相手を前提にイメージトレーニングしようと提案していました。だから実際に会ってみて、「強い」「怖い」と思っていた相手が大きく見えなかったのでしょうね。さらにイプラス的な要素が発揮され、握手して自分の正しい位置が自覚できたことは、今までのシンプルな作戦が、上手く功を奏したということだと思います。今聞いてとてもうれしいですし、有意義なトレーニングができたと自信を深めました。
升田 今回は1つのメンタルトレーニングとして、サウナの中やジムへ練習に行く前などに「ワンデイに勝ちました。ありがとうございます。」と大きな声でずっと言っていたんですよ。試合中セコンドアウトになって立ち上がり相手に向かっていくときにも言っていましたね。(笑)一般の人は恥ずかしくて言えないかもしれないですが・・・
~ 「勝ちますように」という願望ではなく、「勝ちました」と完了形でイメージし、それに対し「ありがとう」と心から感謝することで、脳がその方向に動き出す、といいますね。
美濃部 自分がトレーニングを受ける立場から「イプラストレーナー」という伝える立場になったからこそ恥ずかしいと思わずに信じきれたのではないでしょうか。
升田 はい。よい結果がでたのは、このメンタルトレーニングで自分に言い聞かせていた事が、脳にインプットされていたのかなと思います。
松井 升田がカムバックする時、トレーナーを頼まれたのですが最初は断りました。その後やっぱり「升田なら最後までつきあってやりたい」という思いで引き受けましたが、最初は思うように事が運ばず「自分はいったい何をやっているのかな」と思ったこともあります。でも引き受けた以上はトレーニングを信じて一生懸命やりました。その結果やはり感謝という気持ちが湧き上がってきましたね。満足と感謝を基本としたイプラスのトレーニングは力を発揮できるものだと思います。ただ升田への感謝の気持ちは、未だに面と向かって表していないですけれども・・・一同 (笑)。
松井

以前のインタビューでも言いましたが、イプラストレーニングはやらないよりやったほうがいいです。最初は軽い気持ちだったんですけれど、もうなくてはならないものになりました。ただ、世間の人にそれがどれだけ伝わるのかなと・・・知らないことがもったいないですからね。

 あらたなる挑戦~REBORN 再生~
~ 最後にイプラスジムの会員の方に向けて、升田さんからメッセージをお願いします。
升田 僕は世界チャンピオンになった自分をイメージしています。今回の勝利も「勝って世界チャンピオンになった」という強いイメージを持てたことが勝因だと思います。それと大事なのはあきらめないことです。僕はボクサーとしては29歳で高齢です。8月の試合は下馬評ではみんな相手が勝つと思っていたんです。でも自分とチームを信じて、あきらめずにやれば勝てることが分かりました。最終的には世界チャンピオンになった姿をみなさんに見せたいと思います。それができたらもっとたくさんの人にイプラストレーニングのよさを理解していただき実践していただけると思います。
~ 私たちはチャンピオンベルトを巻いている升田さんのイメージはできていますので、ぜひその姿を我々に見せて下さい。
升田 はい。体と心のケア、フィジカル面を鍛える先生などや多く出会いがあり、そのみなさんの応援や支援で前回OPBF東洋太平洋ライトフライ級チャンピオンを獲ったときの自分より強くなっていると感じています。今後も勝ちにこだわって挑戦していきますのでさらなる応援をよろしくお願いします。
~ みなさん今日はありがとうございました。今後もイプラスジム全体で「チーム升田」を熱く応援していきたいと思います。
一同 ありがとうございます。

インタビュー 斉藤 義生

升田 貴久
1979年5月14日生まれ。WBA世界フライ級8位、WBC13位。元OPBF東洋太平洋ライトフライ級チャンピオン。愛媛県松山市出身。2005年12月12日、嘉陽宗嗣と初の防衛戦。12R判定で敗れ、これを最後に引退し、全国で脳のトレーニングを実施する「イプラスジム」のトレーナーとして勤務するも、「このトレーニングを活かして再度世界を獲りたい」という想いから、2007年階級をフライ級に上げ復帰。その後2008年8月に行われた、WBC世界ミニマム・ライトフライの2階級を制した元世界チャンピオン、ワンディ・シンワンチャーとの対戦に見事勝利し、世界ランキング入りを果たすとともに、今後の世界タイトルマッチに向け、2008年12月23日に地元松山にて13年ぶりのボクシング興行として世界前哨戦を行う。
松井 久
広島県生まれ。高校在学中にバンド結成し、九州、西日本を中心に活動する。その後ミュージシャン(泉谷しげる・Shy)の付き人をしながら、レコード会社を設立。(その後さらに三迫ボクシングジム入門・会社設立(拓馬工業)、プロボクサーデビューし引退後トレーナーへ転身。何人ものランキングボクサーを育てる中、升田選手が第25代OPBFライトフライ級タイトル獲得。現在は社長業を営む傍ら、一児の父として、升田選手の専属トレーナーとしての多忙な生活に、イプラスジムのトレーニングを取り入れながら活躍中。
美濃部 和巳
「イプラスジム赤羽」チーフトレーナー。健康(栄養・運動・休息)、生涯学習を学術的、生活的に研究ののち、脳力開発トレーニングに出会う。トレーナー資格を取得後、2002年から脳力開発トレーニングジム「イプラスジム赤羽」にて指導を開始する。チーフトレーナーとして指導に従事する傍ら、米国公認オプトメトリスト・内藤貴雄氏の監修の下、升田貴久をはじめプロスポーツ選手における「個別ビジョントレーニング」は選手成績に大きな成果が実証されている。在籍会員のみならず、イプラストレーニングを実社会の企業や教育現場での指導し、今後、大きな活躍が期待されるトレーナーの一人である。
 対談 志賀一雅 × 大野一道「新たな時代に向けて」
音楽を通して人間の本質を探る声楽家・芸術プロデューサーの大野一道氏と志賀会長との対談です。これから私たちが歩むために必要なことを音楽と脳研究の立場から熱く深く語っていただきました。
 いまの世の中は・・・
志賀 はじめまして、今日は声楽家としてご活躍の大野先生にお目にかかれるということで楽しみにして参りました。よろしくお願いいたします。
大野 こちらこそよろしくお願いいたします。
志賀 先生の著書「観る」(芸術現代社)を読ませていただきました。この本は「あとがき」から始まる珍しい構成になっていますね。いいなと思ったのは、先生のお気持ちを知った上で読むことができたので、とても理解しやすく共感できました。
大野 ありがとうございます。私は演奏家を志した当初より、日本人として西洋音楽を演奏することの意味を本質的な視点で考え続けてきました。西洋の古典を演奏するのですから、西洋の本質を理解することは当然のことですが、西洋を求め、学ぶだけでは模倣の域を超えることができない。日本人としての立ち位置が明確でなければならないと気づいたのです。もう一度日本を見つめようと思ったとき、古美術に出会い、日本の、更には東洋の美の深さに魅了されてのめり込みました。殊に人そのものが現れる書画には魅力を感じました。哲学や仏教を特に研究したわけではありませんが、美を通じて東洋の深い精神世界を観、大自然と人間の調和を求める日本の心を知ることができたのです。気が付くと逆に西洋が鮮明に感じ取られるようになっていました。そして、日本の美意識の混乱状況がはっきりと見えるようになりました。美意識の混乱は本質的な視点の喪失を意味し、心の在処を不明にして精神の混迷を導きます。明らかな精神を取り戻さねばならない。そのために本来の日本の心を求めることが重要であると強く感じたのです。美を深く求め続けると、皆同じところに行き着きます。日本の心の奥深さが見えてくる。東洋の深淵を象徴する日本の美は、比較の視点を超えて地球を一つに結ぶ全体性と循環性への道筋を示すものだと言えます。
志賀 なるほど、先生の著書を読み進めるうちに、いまの社会はおかしい、ずれている、という思いがひしひしと伝わり、いま言わないともう手遅れになるぞ、という悲壮感が強く表れていますね。この本をたくさんの人に読んでもらえると安心ですけど、本の帯にも書いてありましたね「この売れない本が売れるとき、世界は変わるかもしれない」と。
大野 (笑)・・ あのときは書かかなければという使命感のようなものがありました。ストーリー性のある台本やエッセー、詩などは書いていましたが、哲学的な内容を持つ芸術論は全くの初めてで、書けるとも思っていませんでした。考えたというよりも、どこかからか言葉が降りてきたとでもいうような・・・ ですから、いま読み返しても私が書いたのかな? と思ってしまいます(笑)。
 21世紀の課題
志賀 かねがね思っていることですが、18世紀から現代にかけて、果して人間は進歩して来たのかなと疑問を感じているんです。もちろん科学技術は進歩して便利になりましたが、人間として進歩したのかどうかは何とも言えませんよね。一つ一つは知恵を出して良かれと思ってやったことでしょうから責められませんが、結果としてはあまりいい状況になっていませんね。これからの日本、世界、地球はどうなるのか心配です。いま食糧難で暴動が起きそうな国が18カ国に及ぶそうですね。もとはといえばバイオ燃料だそうです。温暖化を防ぐためにガソリンにバイオエタノールを混ぜて使おう。そのこと自体は合理的でいいのですが、効率を上げてエタノールを造るためにトウモロコシを使う。生産業者は食料や家畜の飼料よりエタノールの製造に回したほうが高く売れる。だから食料は高騰し、養鶏や酪農は破綻して食料難となった。いいことをしたのにとんでもない結果になってしまった。これらが「西洋の知恵」と呼ばれるものですね。
大野 そう、非常に短絡的な発想ですよね、目の前の現実しか見ていない・・・ 産業革命以降、今日に至る人間社会の動向を俯瞰的に見ると、目に見える世界を見極める方向に加速度的に傾斜していったと言えるでしょう。その結果見えない世界をどこかに置き忘れてきた。それは致命的な偏りです。国際的な西洋化の流れの中で、至上主義経済社会の必然として表れた物質至上主義的な傾向、即ち物や形への執着は、東洋の全体性とは逆の方向性を示しています。東洋の全体性は見える世界と見えない世界のバランスの上に成り立っている。東洋の全体性を私流の公式に表すと【1(内面・見えない世界)+ 1(外界・見える世界)= (全体世界)=∞(宇宙・多次元)】ということになります。見えない世界を「感」の支配と見、見える世界を「知」の支配と見れば、現代は限りなく「感」から遠ざかり、「知」に偏っていると見ることができるでしょう。見える世界と見えない世界のバランス、即ち、「知」と「感」の調和が重要であると思うのです。先ほど申し上げたように、東洋的な思想や文化は「知」と「感」の絶妙なバランスに支えられています。それは見える世界と見えない世界の戸境(境目)に自らの存在を定めることであり、三次元的視点を超えて営みの全体像が見通せる状態を意味します。即ち、東洋の全体性は西洋の合理を包含する次元の高さにあると見ることができるのです。現代科学は、本来的に無限で多次元性のある世界を、無理やり三次元の枠の中に落とし込もうと無理をしているように見える。科学でいう多次元とは三次元から見た多次元ということですしね・・・。多次元世界の入り口、三次元に立って目に見える事象を分析するという役割を明確に認識した上で取り組めば、科学を有効に生かしきることができるのではないでしょうか。今、人類史的に見る大変革の時代、営みの方向性を大きく転換するために価値観を根底から見直さねばならぬところに来ています。しかし現実否定からは創造の営みは生まれない。ギリシャを原点とする西洋合理主義の流れを否定するのではなく、活かし切るためにも人類の立ち位置を見極めることが重要です。「知」と「感」の調和に基づく広く深い全体性の中に科学を位置づけることが、21世紀の課題であると私には思えるのですが・・・。
 「感」は「観」に通じる
志賀 う~ん、確かにそうですね。いまは科学が万能の時代だから・・・、科学の限界を十分に知っているはずの科学者ですら、自らのスタンディングポイントを忘れていますね。もっと心配なのは、芸術の世界、音楽や絵画、陶芸などは、経済的に採算が合わないので衰退しかかっていますよね。すでに消滅しつつある絶滅危惧種は匠の世界でしょ? お寺にある国宝級のふすま絵や屏風などの作品はデジタル技術を使ったレプリカに置き換えている。本物は温度と湿度をしっかり管理できる倉庫に保管する。風化を防ぐために仕方がないといわれますが、それでは、私たちは本物に接するチャンスがない。やはり本物に触れることが大切で、偽物を観て感動する「感」を養っても意味がありませんよね。先生のおっしゃる「知」の世界にひたすら走っていますね。仮に名作が壊れて消えたとしても、お父さんが「昔はすばらしい作品があったんだよ」と子どもさんに伝えればよいのではないでしょうか。本物は保存するのではなく「観」なければ意味がない。
大野 そうですね、そして「観る」感性を育むことが重要になります。私は、家にいますと朝の目覚めからお抹茶をいただきます。一日に何杯も飲みます。来ていただいた方にもこのお茶碗はこの方に合うかなとお出ししたり、時にはお選びいただいています。「古いお茶碗ですか?」と質問されることがよくありますが「桃山時代のものです。400~500年経っています」「え~、壊れたらどうするのですか」「そりゃあ壊れるかもしれませんね。でも壊れたら壊れたでいいんです。ていねいに直して使ってやると、傷が一つの歴史になりますよ。」とお話すると驚かれます。茶器はお茶を飲む道具ですから、茶碗は茶碗として使ってこそ活きますし、使うことによってエネルギー交信ができるのです。「観」の世界です。
志賀 そこ、そこなんです。いま交信をしているとおっしゃいましたが、交信しながら脳が共鳴し共感する。そのことが大切だと思います。いいもの、本物と共鳴し共感できる脳が新たな本物を創る。そのことが検証できれば問題ないのですが難しい。デジタル技術を駆使すれば本物そっくりの偽物を作ることができる。しかも困ったことに極めて経済的なので、あっという間に広がる。なんと文化庁までデジタル化を奨励している。子供たちがそれを見せられたのでは本物を観る力は育たない。CGで感動しアイボで癒されるようになってしまっては人間でなくなる。いまヴァーチャルリアルティーの技術分野は人気で格好がよく見えますが、あれって「偽物」の技術ということですよね。本物は高くつくので安い偽物で我慢しよう。その方が合理的ですよね。しかも困ったことにヴァーチャルな方が魅力的になってしまう。そこが脳の学習効果の怖いところです。それで何が悪いの? と開き直られると何も言えなくなる。でも先生は著書「観る」で見事に、「それでは駄目なんだ!」と強く主張されている。
大野 こういった考え方は知識として得たことではなく全て体感から導いたことなんです。ですから論理的に筋道をつけて語ることもできますが、結局は感じ取ることによってしか本質に届かない。書物は入り口であって、体感に至る手段が求められることになります。求めるべきもの、それは東洋的な全体性に基づく深い存在バランスなのです。それはなんら特別なことではないのですが、「感」即ち「観」としてとらえ得るものですから、実感できている方は少ないと思います。宇宙的な表現世界に身を置いているから体感できているということでもないのではないでしょうか。「全体世界」と繋がった声や楽器の音は、心に空間性が確立され開かれた状態において現れますが、よいバランス状態の音の波動と、内面が閉じて孤立し固まっている状態、即ち心の空間性の確立されない状態の音の波動とで100とゼロほどの違いがあります。洗練された耳にはその違いがはっきりわかる。私は物理のことはわかりませんが、いまの音の概念では、そういった違いが数値化できないんですね。
志賀 それは残念ながらできません。物理の世界では数値化できないものは扱えない。私は、数値化できないのではなくて、数値化する技術がまだ開発されていないだけだと思います。知人の佐治晴夫氏ですが、いま鈴鹿短期大学の学長をしていて、本業は理論物理学ですが作曲をしたりパイプオルガンを演奏したりの多才な人で、密かに数理芸術を構想しています。やはり同じ思いなのですね。必要となれば技術はいくらでも進歩しますが、世の中はまだ必要なのだと気がついていない。必要だと気がついたときにはもう手遅れかも知れませんけどね。
 「感」のつかみどころ
志賀 ところで先生はバランスがとれた状態を常に意識されていらっしゃるのですか。
大野 いえ意識はしていません。どうすればバランスがいい状態になるのかということの道筋は自分の中に明確にありますが、意識をすると囚れてバランスは壊れます。私のところに来て一緒に勉強している人たちは、みんな自然なバランス状態になって行きます。一人でやると元に戻ることもありますが、繰り返す内に確実に上達します。
志賀 そうですか。トレーニングや体感を積んでいくと感じとれるようになるのですね。
大野 現在までの結果では、多少の差はあっても誰でもがその方向に進化しています。難しいことじゃないんです。ただ、社会の現実に合わせて、みんなが向かっている方向に流れると永久にそうはなりませんね。このままいくと「感」が閉じて人間は確実にロボットになりますよ(笑)。
志賀 経済成長がいまの政府の最優先課題ですから・・ みなの関心事も経済成長で、そのためには合理化しかありません。でも、合理化すればするほど不合理な結果になるんですよね、皮肉なことに。逆に不合理なようにみえることが、極めて合理的になることが多々あります。そういった現実を変えるには東洋的な日常生活を基本にすればいいのでしょうが、気がついてみると周りはほとんど合理的に整理されて西洋化してしまいましたね。私の子どもの頃は仏壇があって、正座して手を合わせ、お祈りをする。こんな光景はどこにでもありましたが、いまは仏壇のない家の方が多いでしょ? 都会のマンションの間取り図を見ると、仏壇はどこに置くのかな?と頭を傾げてしまう。食事も家族揃っていただくことが当たり前だったのに、仕事や塾で時間が合わないからバラバラです。東洋的な自然体を生活の中で身につけることは現代社会では難しそうですね。
大野 そうですね。美の視点で伝統世界を見ると、四季に移ろう美しい自然の中で文化を育み続けた日本は、東洋的な全体性の感覚を確かなものとして持続し、循環の営みを実現し得た希有な国であり、その感性は世界一といってもいいと思うのです。しかし、いまの日本人は、その感覚を失ってしまいました。ごく一部、沖縄に行きますと今だ、見えないものを観る感性が残っていますが・・ やはり、日本は本質的な視点を見失って混乱している。「知」と「感」のバランスが完全に壊れてしまっているんですね。私は、自然な声を求め続けた結果体得した呼吸法と内観共振法で心と体のバランスを、きちんと整えることができるという確信に至りました。心と体の正しいバランスから「知」と「感」の調和が導かれるのです。
志賀 歌うのですか。
大野 いいえ、誰でもできる単純な発声です。譜を読みなれていない場合、音程や音階に捕らわれてしまうと声が出なくなるので歌ではなく発声がいいですね。考る前に感じてもらい、内面の状態を探っていただくんです。実質的なことをいえば、胸郭を広げ、内面の空間性を感じ取れるようにする。その内面に声を合わせるのです。通常は外界、即ち見える世界に囚われている視点を、内面、即ち見えない世界に向けてバランスを取るのです。驚くほど顕著に効果が現れ私自身、いつも驚かされます。今後は、それを多くの人にいかに伝えるかが課題だと思っています。学校などで子供達に伝えることができるといいのですが、まだ、教えられる人がいないので、先生を養成せねばなりません。子どもは捕らわれなく純粋ですから、バランスをわきまえた大人が関われば、そのままバランスのよい状態で育つと思います。学校だけでなく家庭も大切ですね。先生と子どもと親、みんなで学ぶ体制ができれば世の中が変わる可能性が充分あると思っています。今大人になって、心のバランスを崩す方が大勢いらっしゃいますね。そういう方に論理的にお話すると、閉じているので聞き入れることができず逆にストレスになると思うんです。簡単に声を出していただき、バランスを調整する方法を取ればストレスがかかりません。そしてある程度癒えたところで、今度は言葉で論理的説明をすればよりよく解り、さらに進んで回復に向かうのではないかと思います。今の時代、病気だと世間では言われなくても、ほとんどの社会人は閉じて孤立していますからね。
志賀

そうですね。最近ではうつや意欲喪失、ニートも増えて社会問題になっています。大学や高校を出て、せっかく会社に入っても、自分に合わないと、1ヶ月も勤められない人が多くなっているそうです。会社では、採用するに関しても費用もかかりますから、できるだけ辞めさせないように対応するためにわがままを助長して悪い方向に進んでしまう。原因は、幼児期や小学校時代の過ごし方の歪みが出てきているのではないでしょうか。私たちが行っているイプラスジムでの練習や先生のおっしゃるバランスを幼い頃から教えられればいまのような事態に陥らないような気がします。イプラスジムのトレーニングを導入した専門学校ではいい成果を上げていますから、普通教育の中にも取り入れて欲しいですね。できれば小学校とか・・・。

 再生のために
大野 子供に内観共振法をやると、情緒が安定して、脅威的に集中力が増すと思います。当然感性も豊かになります、そして大人も。まず私達日本人が本来のもの即ち東洋の全体性を取り戻し世界に発信せねばなりません。ある意味人類は限界点に来ています。地球と人間の調和と共生を実現するために、「知」と「感」を一つに結ぶ東洋の全体性が求められる時代がきていると言えそうです。東洋の時代というその意味は、経済だけではなく、地球と人類の共生のために東洋の全体性に基づく立ち位置の確立の必然性があるという意味で捉えるべきでしょう。もう一度人と自然の調和を踏まえた営のかたちを取り戻さなくては、人類は近い将来確実に滅びるのではないでしょうか。
志賀 おっしゃる通りです。いまは経済が優先ですから利益が評価の尺度です。確かに利益が上がれば経済的に潤い、そのゆとりで格差是正や福祉がいきわたり、みなが幸せになる。理屈はそうかも知れませんが、現実には格差はむしろ広がり福祉もカットされる。本来はみなの幸せが目的で、その手段として経済成長が必要だった。ところがいつの間にか手段が目的に変わってしまい、そのための手段は自由。そして利益が評価の尺度になってしまった。利益は数字で評価できるので、ある意味では公平ですが、数字はいくらでも操作できます。賞味期限や産地の偽装、捨てるものまで再販すれば利益は上がります。隠し通せばいいと考えているのでしょうが、人間の心はそれを許すことができず、どこかで破綻します。老舗の料亭がごまかしで利益をあげ、つぶれていくのを見ると悲しいですね。せっかくの人生ですから、満足、喜びを味わいながら過ごしたいと誰もが思っているはずです。幸せの実現が目標であって、それを達成したときの喜びが想像できるからこそ頑張れる。ところが利益が目標になってしまうと、それは数字の世界のことですから心からの喜びが湧き上がらないし歯止めもない。後ろめたいことをすればするほど数字は増えて見かけ上の利益も上がるけれど心はむなしい。こんな仕組みの中で人生の貴重な時間を費やすのはもったいないですね。もう一度原点に戻って、本当の幸せとは何なのかを考える必要がありますね。カールブッセの「山のあなたの空遠く・・・」には幸せは無かったが、メーテルリンクの身近に幸福の青い鳥がいた。そんな気づきが大切だと思うんです。まずは日常の中に喜びを見つけ満足する。そしてさらに高い目標への階段を登るために喜びと満足の幅を広げていく。
大野 そうですか。トレーニングや体感を積んでいくと感じとれるようになるのですね。
志賀 そうですね。実はいま大学院で脳波の研究を行っていますが、頭のどの部位に電極をつけるかによって脳波の信号はかなり違っています。体が感じて動きたいという部分は体性感覚野と運動連合野ですし、意識でコントロール働きは左脳の前頭連合野です。先生のおっしゃる通りほとんどの人はこれらの部位の脳波はシンクロ(同調)していませんね。意識が体を支配し命令して、体は嫌々行動しているみたいで、心と体がバラバラです。でもシンクロするときもあります。いい気分で動いていたりとか、体にまかせて動いたり・・・ 自然の動きでしょうか。もっと興味あることは、人と人との脳波でシンクロするときがあります。以心伝心とか阿吽の呼吸でしょうか、そんなときにお互いが癒しあえるのかな?と思っています。
大野 そのお話は体感と重ねるとよく理解できます。見えない世界の真実は見える世界の真実とシンクロするはずですよね、真理は一つですから。今日お話したことは超能力でも何でもないごく自然なことですよ。病気治せますよと宗教的な活動をしている方もいらっしゃいますが、自然治癒という言葉があるように、人間は地球の一部、自然と一体のものですから、心と体の自然なバランスが整えば病気が治るのは当たり前です。宇宙の彼方まで全て繋がっています。自然の法則のもとに全てが一つに結ばれている「一」という全体性のもとに個が成立する。という東洋的な全体性を踏まえて人間界が営まれないと、上手くいくはずがありません。宇宙に浮かぶ地球の一部として私達人間が生まれたわけで、人間が地球を造ったわけでもないのですから・・・(笑)。「知」と「感」の絶妙な調和が求められるところです。競争は力の世界です。調和の響きは力の世界を越えたところにこそ存在します。
大野 そうですね。美の視点で伝統世界を見ると、四季に移ろう美しい自然の中で文化を育み続けた日本は、東洋的な全体性の感覚を確かなものとして持続し、循環の営みを実現し得た希有な国であり、その感性は世界一といってもいいと思うのです。しかし、いまの日本人は、その感覚を失ってしまいました。ごく一部、沖縄に行きますと今だ、見えないものを観る感性が残っていますが・・ やはり、日本は本質的な視点を見失って混乱している。「知」と「感」のバランスが完全に壊れてしまっているんですね。私は、自然な声を求め続けた結果体得した呼吸法と内観共振法で心と体のバランスを、きちんと整えることができるという確信に至りました。心と体の正しいバランスから「知」と「感」の調和が導かれるのです。
志賀 そうですよね。本当にそうだと思いますが、人間はどこで舵を取り間違がえたのか、ここまで来てしまいました。戻りましょうと呼びかけても、激しい流れに流されて行動に移せていない。どうしたらいいのでしょうか?
大野 イプラスジムさんの活動のように実践と結びつけて啓蒙することがすごく大事なことだと思います。さらに私の持論である地球人の立ち位置、広く深い東洋の全体性と循環性を理解いただき、内観共振法により心と体のバランス状態を整えることをお薦めします。
志賀

そうですね。この対談や先生のご著書を通じて、現状と進む道をお伝えし、ご理解いただく人を増やしていきたいですね。私たちの活動や先生との出会いを意味のあるものにしていきたいと思います。話は尽きませんが、本日のところはここまでにしたいと思います。興味深いお話をたくさん伺うことができました。どうもありがとうございました。

大野 こちらこそありがとうございました。
 対談 雑感
志賀 イプラスジム姫路に以前おられた谷口さんからご紹介いただいて大野一道先生とお会いすることになりました。谷口さんは大野先生の主宰されている勉強会に参加されていて、イプラスの考えと合致するのでぜひ対談を、とのことでした。
はっきりとした記憶ではありませんでしたが、確か姫路城の三の丸広場でトランペット奏者と共演された方ではないかなと思ったのです。NHKがその準備から本番までの様子をドキュメンタリータッチで紹介され、世の中にはずいぶん変わったことを企画し実行する人もいるもんだなぁという印象でした。ライトアップされた姫路城は確かにきれいですが、モノオペラ「やまたのおろち」を演奏するにしては音響効果や諸々の条件が最悪です。おまけに雨が降ったらどうにもなりません。事実小雨交じりでテレビカメラやミキサーなどビニールシートでカバーして、スタッフたちもずいぶん苦労されたのではないでしょうか。そういう人たちがやる気を出すようなプロデュースも凄いと思いました。
本番では雨もやみ素晴らしい演奏だったことが印象に残っています。世の中にはずいぶん変わったことをする人もいるもんだなぁ、会うことができたらいろいろ話を聞いてみたいなぁと思ったのですが、そのご本人を目の前にした対談が実現したのです。谷口さんの紹介ですが、なにか私にも「引き寄せの法則」が働いている!とワクワクしました。
きれいにととのえられた手造りのお庭を眺め、お抹茶をいただきながらの対談は、話が弾み、長時間になってしまいました。ほんの一部しか紹介できませんが、大野先生の情熱の一端を感じとっていただけると思います。
ものすごく穏やかな口調で、さすがに声楽家ですから声の響きもよく癒されるのですが、姫路城の三の丸広場でトランペッターとの共演を行うという奇想天外な企画を実行に移すバイタリティーがどこに潜んでいるのか不思議でなりませんでした。立場を利用したり力ずくでは人は心からは動きませんが、思いが通じれば凄いこともできることを観せてもらいました。
 その後大野先生から丁重なお手紙をいただき、さらに浜離宮朝日ホールでのリサイタルのご案内もいただきました。原稿締め切りまでには間に合いませんが堪能してきます。
 ジムレポート イプラスジム広島

イプラスジム広島は、西日本一を誇るギフト専門店「大進本店」が運営する七田チャイルドアカデミー広島西地区本部教室(第1号教室!)の直営ジムです。七田とイプラスが隣接しているので「0歳からシニアまで」の皆様の脳力(右脳)開発が可能となりました。ここ広島は、穏やかな瀬戸内海に面し、四季を織りなす緑の山々に囲まれ、市街地には南北に6本の川が流れる美しい街です。広島といえば「お好み焼き」や瀬戸の恵み「広島牡蠣」などの豊かな食文化が有名ですが、歴史と伝統そのほかにも「広島カープ」をはじめ「サンフレッチェ」「広島交響楽団」と3つのプロが活躍する活力と魅力ある中国地方の中心都市です。
を含めたスタッフの特徴は、元気が良い!楽しいことが好き!美味しいものが好き!そして若いこと!? 3教もっと喜んでいただけるよう力を合わせ全力で頑張っております。お近くに来られる際は、ぜひお立ち寄り下さい。

イプラスジム広島 トレーナー:小作恵理・山本 親
 イプラスキャラバン

フリーライターはゆく! ゆっくりと 少しずつ・・

このコーナーは、ニュービジョンライターのEBAにまつわる旅の記録です。
イプラスキャラバン担当のフリーライター、モリスン大日です。全国のさまざまな場所に出没し、EBAにまつわるさまざまなトピックスをお伝えします
 東京都練馬区「いきいき脳フェスタ2008IN東京女子学院」キャラバン
今回は練馬区の東京女子学院(TJG)で開催された「いきいき脳フェスタ」に潜入し、さまざまな取材を行いました。今回はTJGの学園祭である「芙蓉祭」と合同での開催ということで、当たり前ですが、女子中高生の皆さんのエネルギーにしばし圧倒されながら、さまざまなブースを取材しました。志賀先生と内藤先生が大会場で講演を行い、中高生の方に役立つトレーニングのさまざまなノウハウを伝えておられ、客席におられたフェスタへの一般参加の方々と保護者の方々が、かなり一生懸命メモなどをとっておられるのを横目に「映画上映会(1/4の奇跡)」やトレーニングブースでのシンガンや脳波測定などを駆け巡りました。
短い時間で「あれもこれも」と欲張りすぎ、へとへとになって学生食堂でしばし休憩。そこへ可愛い生徒さんが「おにぎり、ハンバーガーなどいかがですか?」と販売しに来てくれて「ここはひとつ、大人としてどげんかして協力せんとイカン」と張り切って、一人では絶対に食べきれない量のおにぎりなどを買ってしまい、近くにいた関係者の方に「これもし良かったら食べてもらえませんか?」と声をかけてまわり、余計にへとへとになったりもしましたが、本当に楽しかったです。学校関係者の皆様、フェスタ関係者の皆様、そして生徒の皆様。本当にありがとうございました。
志賀先生講演、皆さん真剣です。 4人でシンガンにチャレンジ!結果は・・
大したことなかったぞ!
 福岡市中央区「小久保裕紀選手対談収録」キャラバン
福岡市中央区小笹にあるイプラスジム福岡で対談を収録させていただきました。小久保さんが颯爽と現れた際には、あまりのカッコよさに思わず固まってしまいましたが、気さくに声をかけていただき和やかなムードで収録開始。少しトレーニング風景を撮影した後、対談に入ったのですが、お二人のお話にひきつけられ、気がつけばメモもとらないまま、「あっ」という間に対談終了。「その場所に立ち会えた幸せ」をひしひしと感じながら片づけをしていたら、小久保さんから「せっかくだからみんなでメシ食いに行きましょう!」とご提案をいただき、今度は「美味いものが食える幸せの予感」をひしひしと感じながら、一同直行。そのお店の名前は、ここでは触れませんが、最後の締めのご飯の美味いこと美味いこと。小久保さん曰く「ここに来るのは、このご飯を食べにくるためです。」とのこと。裸の大将と競り合うくらいにご飯好きな私は心からの幸せを感じつつ、小久保さんの来期の活躍を心から祈ったひと時でした。小久保さんは来期も引き続き、イプラスジムでトレーニングされるとのことです。ニュービジョンの読者のみなさん、小久保さんと福岡ソフトバンクホークスとイプラスジムの応援をよろしくお願いします。ところでニュービジョンは今号で一旦休刊されるとの事ですが、復刊後もコーナーを任せてもらい、そして、また福岡であのご飯が食べれるよう、私も精進します。それでは、しばしのさよならです。チャオ!
みんなで記念写真。よくよく考えたら
自分は撮ってもらってない・・・
背が違うので大変そうであります。
後ろで志賀先生が見守ってます。
旅はつづいてゆく・・・
ライター
モリスン大日

自称「単なる、読書好き・映画好き・音楽好きのフリーライターもどき」
EBAの活動内容に賛同しボランティアで取材活動を続けている。
「ニュービジョンを週刊誌に!」という無謀な夢を抱く。かに座。O型。
座右の銘「猫はなんでも知っている」