志賀 |
高岸先生には、日ごろ私どものスタッフにご指導いただきありがとうございます。今日は多くの読者の方々に、先生からご指導いただいていることのエッセンスをお伝えしたいと思い、対談をお願いしました。よろしくお願いします。 |
高岸 |
こちらこそよろしくお願いします。 |
志賀 |
私どものイプラスジムでは、いろいろな目的のために脳力開発のプログラムを提供していますが、一つの切り口として、「集中力を高めたい」という要望があります。集中しようと思うのですが、具体的にどうしたらいいのか分からない。集中しようと思わなくても、結果として集中できることはよくあることです。逆に、集中しようと思うと、かえって集中できないこともよく体験します。ところが、先生の推奨される残像カードを使うと、集中力が高まるということですので、その残像カードについてご説明いただけますか? |
高岸 |
はい、いま私は、残像を利用したメンタルトレーニングを指導させていただいています。研修では、みなさん熱心に取り組んでいただき、反応がとてもよく、楽しく指導させていただいています。先ず初めに、私は建築家ですが、なぜメンタルトレーニングを指導するようになったのかというお話をさせてください。きっかけは建築の仕事でイタリアに11年ほどいたときのことなのです。 |
志賀 |
いつごろ滞在しておられたのですか? |
高岸 |
1969年ごろからです。イタリアの建築事務所で仕事をしていたとき、ある食前酒メーカーのオーナーから、宮殿の改修工事を依頼されました。そこは約7万坪の敷地があったので、その中に建築事務所を構え、住み込みで改修工事をしていたんです。当時からイタリアは土日が休みでしたので、依頼主に宮殿をいろいろと案内してもらったんです。日本でもそうですが、資産家のお家は、部屋数が多いですね。私はそのときまで、たくさんの部屋を持つことは、ただの見栄だと思っていたんです。 |
志賀 |
そう感じますよね。 |
高岸 |
そうですよね。ですが、依頼主のお話を聞くと、1部屋1部屋にそれぞれに必要かつ必然として、それが存在するということがわかったんです。 |
志賀 |
ほう、それぞれに意味がある、ということですか。 |
高岸 |
例えば、玄関の入口の側に小部屋があります。何の意味があるのかわからなかったので、どういう意味ですかと聞きますと、そこは頭を切り替える部屋だというんですね。依頼主は多忙で、そのまま家に入っていくと、頭の中が仕事モードのままで、家族との生活に切り替えができないと言うのです。 |
志賀 |
なるほど。 |
高岸 |
その玄関の側にある小部屋には、好きな絵画などを置いて、音楽を聴き、15分ほど着替えながらのんびり過ごす。そして、完全に頭を切り替えてから、リビングに入っていくそうなんです。そういった過程を踏んで家庭人に戻るということをしているんですね。依頼主の宮殿には、全部で25部屋ありましたから、それぞれの部屋についても聞いてみたんです。 |
志賀 |
全て必然性があるんですね? |
高岸 |
そうなんです。パーティーシミュレーションの部屋、家族会議の部屋、親戚が集まり会議する部屋、集中とリラックスという名目で部屋が展開されているんですね。このとき、人間には、リラックスと集中が非常に大事でそれを生かす工夫をすると、もっと自分自身を磨き向上させていくことができるのではないかと思いました。 |
志賀 |
なるほど。 |
高岸 |
しかし、日本の場合は、私自身はしていないつもりですが、仕事のことで頭がいっぱいで帰宅し、家族と向き合うはずが、上司や部下、取引先がダメだと家族に愚痴ることの方が多い。それでもいいと思うんです。心を許しあう仲だからこそ、そういう会話ができるという人もいらっしゃいますからね。しかし、私がイタリアで学んだ考え方では、リラクゼーションだけではダメだと思うんです。家族の中でもいろいろな問題が起こります。将来のことも考えないとダメですよね。目標も設定しないとダメです。それには、リラックスして、集中して、目標をしっかりたてる。リラックスして、集中して、感情をコントロールする。リラックスして、集中して、毎日考える。リラックスして、集中して、コミュニケーションを図る。リラックスして、集中して、イメージングをする。そういうことができる場所が本当は必要だと思っています。ただ日本の住宅事情では、25も部屋を作ることはとても難しいことです。しかし、私は住宅やオフィスに集中空間とリラックス空間を入れた設計を提案し、東京ではあるオフィスに採用されています。これも考え方は同じで、外勤の人は、内勤に入る前に切り替えが上手くできないですね。いきなり自分の机に戻っても、新聞読んだり、コーヒーを飲んだりして気が散ってしまう人が多いのです。そこでまず、リラックス空間に入って、雑念や、嫌なこと、よかったことを一度整理し、充分リラックスします。そして、集中して脳を刺激し、今からやる仕事に思いを馳せる。するとオフィス空間に入った瞬間に仕事ができるということになります。 |
志賀 |
なるほど、それは面白いですね。 |
高岸 |
そんなことを考えているうちに、建築・空間によるリラックスと集中の考え方が、スポーツ界のメンタルトレーニングと一緒だと思ったんです。さらに残像を利用すると手軽にリラックスと集中が得られることがわかりました。それから残像カードを使ってメンタルトレーニングをはじめたのです。 |
志賀 |
その残像カードを使ったメンタルトレーニングについてお伺いしたいことがあります。先生の残像カード大変好評なのですが、実はいまスタッフの間では喧々諤々の論議になっているんです。正直に白状しますと、私は何をやってもうまくいきません。例えば、メモリーペッグをあまり覚えられない、ESPカードはほとんど当たらない、シンガンのスコアもかなり悪い。残像カードが見えているのはせいぜい10秒くらいですね。客観的には本当によくない状態ですが、それを主観的に満足しているのです。だから元気でいられるのですが、私なりに満足するための根拠が必要なのです。そこで、残像カードに戻りますが、他のスタッフがやっても一番長くて40秒、だいたい10秒ぐらいしか残像が見えていない。ところが先生のご著書「残像力」の51ページには、2分間ぐらい、長い人だと10分15分ぐらい残ると書かれていますね。本当なのですか? |
高岸 |
はい。私は、カードがなくても見えます。残像カードが生まれたきっかけは、あるときデザインを頼まれ制作していたのですが、上手くいかずいたずら書きをしていたんです。ふと目を閉じた瞬間に緑のデザインがでてきたんです。カラーの残像が見えてびっくりしました。そのときの自分の状況は今でもよくわかりません。残像を繰り返しているうちに不思議と気分が良くなってきて、何かすっきりしたんです。そして、集中力が高まり、煮詰まっていた制作が進み納得のできるデザインが作ることができました。何度かこうやって制作をしているうちに、これはイタリアの小部屋と同じように集中とリラックスをカードによって作り出すことができると確信し、いろいろな図柄のカードを制作して今に至ります。それまで、私は切り替えが上手くできなかったですが、仕事をするときにカードを見るようにしたら効果があり、それ以降、スポーツ選手を中心にメンタルトレーニングとして活用し、結果をだしているのですが・・・。 |
志賀 |
なるほど、よく分かりました。効果があるのは確かだと思います。ただ、それが残像によるものかどうか、なんですね。残像は網膜とそれに続く神経回路の生理現象で、実際に見えている情報ではなく補色となりますから、ある意味では構造欠陥の表れだと私は考えているのです。例えば、昔の液晶は残像がとても長いので、動画が描写できなかったわけです。残像が長いと、現実に見えているものと重なって邪魔しますよね。生命体としてはそれでは身の危険ですから、残像はできるだけ短くなるように働くはずです。幼児は、まだ神経回路が完全ではありませんから残像が長引くでしょうが、神経回路が発達すると残像を早くクリアして新しいものを見るようになるはずです。年を取ると、それがまた衰えて残像が長く見えてしまうかもしれません。先生がお書きになった本の表現は事実でしょうから、私の考えていることとまったく逆なので困っているところです。 |
高岸 |
では、私が1分半ほど見えているというのは、何になるんでしょうか? |
志賀 |
意識で見ているのだと思います。集中力が高いとそれができるのですね。生理的な補色残像が心理的なイメージ情報として切り替わる。そのクロスオーバーは自覚できないのでいつまでも見えているという印象かも知れませんが・・・。おそらく補色でなく、実際の色のイメージでも同じように長く見えませんか?専門家たちが、視覚化、ビジュアライズと表現していることと同じ現象だと思います。私たちのスタッフも、残像は短いけれど、見ようと思えば長く見ていられる、という人は多いですね。ただ、残像を長く見る練習をしますと直観像が見にくくなります。先生の残像カードを瞬間に見て、目を閉じてから色や形をそのまま見ようとしますと、見える人が多いですね。私はこれも駄目なんですが・・・。 |
高岸 |
なるほど、どこかで切り替わっているということですね。実は私は、実証データ重視じゃないんですね。残像カードは使いますが、リラックスと集中が一番大事だと思っています。中心にリラックスと集中があり、その周りを回っているのが残像です。さらに残像の周りを回っているのが、目標設定だと考えています。残像は、メンタルトレーニングに興味をもっていただくための道具だと思っています。 |
志賀 |
道具という捕らえ方は大賛成です。確かに素晴らしい道具だと思います。メンタルトレーニングのアプローチにはいろいろありますが、より健康で、意欲的な人生を過ごすために、リラックスと集中が必要で、それを楽しんで身につける道具として残像メンタルトレーニングを推奨されるというお考えは、私どもイプラスジムにぴったりなのです。ですから、イプラスジムでも残像カードを利用させていただいています。ただ、残像カードも使うときに、残像時間が長いといいことのように強調されていますから、リラックスと集中が目的で残像カードを使うことを忘れて、残像の時間を延ばすのに一生懸命になりすぎる傾向があるような気がします。残像時間があまり延びないために、挫折感を感じる方が結構います。それでは、せっかくのトレーニングが活用されず、もったいないですね。 |
高岸 |
なるほど。残像を伸ばすことを強調することは止めた方がいいですね。 |
志賀 |
そうですね。強調せず、残像が消える人には、イメージをつけるといいですよとご指導されると、自分もできるという人が多くでてくるのではないでしょうか。 |
高岸 |
なるほど。いいお話聞きました。今後の参考にします。 |
高岸 |
メンタルトレーニングでは、私は新参者です。建築から入ってきた人間ですから、先生のように脳科学を研究したわけではありません。でもメンタルトレーニングを普及させたいと思っています。雨降りに満員電車に乗ったら濡れた傘があたるときがあります。また、足を踏まれると、靴が汚れます。そういう状況の中で現代の日本人は濡れた傘があたる、足を踏まれたといさかいの原因になることがあるんですね。ですが、全てのことにリラックスと集中をして目的をはっきりさせ、行動を起こすメンタルトレーニングしていると、電車に乗って足を踏んでも、「すみません。足を踏みました」と、素直に謝れることができるし、踏まれたほうも「かまいませんよ」
となるわけです。そういう心を誰もがもっていると、毎日がどれだけ気分がいいかと思います。 |
志賀 |
そうですね。まったく同感です。それも考えてやるのではなく、無意識に表現できる反射を身に着けたいですね。 |
高岸 |
なるほど。甘いかもしれませんが、そういう世界を作りたいと本心から思っています。1人1人がそうやって対応していくと、やがてみんながニコニコできる社会になると思うんです。何かほほえましい、暖かい雰囲気で、お年寄りに席をふっと譲ってあげるのを見ているだけでも、ただ単に気持ちがいいんですよ。志賀先生の著書を読ませていただいても、よかった、ありがとうと思い満足して、気持ちのよさを味わうことがよいと書いてありました。先ほどおっしゃっておられましたが、反射が作られるといいんですよね? |
志賀 |
確かに反射の形成はいいですよ。体験すれば、反射はできるのですが、問題は、最初にいかに行動するかということなんですね。席を譲られる、「ありがとう」とすぐに感謝できる、行動を起こせば、次も自然にできるのですが、最初にやらないとできないんですね。そういった行動ができないために、先生のされている講演会で、リラックスと集中によって、どういったよい事例があったかということを講演し、大変でしょうが、たくさんの事例をお話いただくといいと思います。 |
高岸 |
志賀先生もおっしゃっているように人の目標というのは、より健康で意欲的に過ごし、よりよい人生を目指すことが一番だと思うんですね。残像を使いながら目標設定とすることを1つの方法として、スポーツ界を中心に
やってきました。スポーツ界では、明確な目標を掲げある程度の結果を残してきたと思っています。今後は、子どもたちや高齢の方を中心に、日本の社会に何かの助けに残像メンタルトレーニングを役立てたいと思っています。 |
志賀 |
お話を伺って、イプラスジムと高岸先生の提唱される残像メンタルトレーニングは同じ目的に進んでいることがよくわかりました。われわれの活動でもより多くの方に先生のトレーニングをお話していただきたいと思います。今後ともよろしくお付き合いをお願いいたします。 |
高岸 |
今年からは講演会を充実させ、より多くの人にお話を聞いていただいきたいと思っておりますので、こちらこそ今後ともどうぞよろしくお願いします。 |
志賀 |
本日は、貴重なお時間をありがとうございました。 |