恐怖心は大抵思い込みです。私たちはさまざまなまずい思い込みに振り回されています。たとえば良くないことが起こったとき、私たちは次も良くないことが起こると考えてしまいがちです。それが状況をますます悪い方向に導いてしまうのです。
・三振を喫した打者は次の打席も三振 に打ちとられると考えてしまう。
・提出した企画が却下されると、次回 も却下されると思いこんでしまう。
・見合いを断られた人は、次の見合い もうまくいかないと考えてしまう。
このような思い込みが外見にも表れ、それが状況を悪い方向へ導いていくのです。なんとしてもこの思考パターンと決別しなければなりません。
メジャーリーグで、2度リーグMVPに輝いた打者マイク・シュミット選手は「スランプから抜け出せないときは、グランドの上にいる者全員が自分にヒットを打たせまい、塁に出させまいとしているように見えるんだ。こういうときは、二塁の塁審までがグラブをはめているような気がしてくるんだよ」と語っています。どんなに優秀な選手でも、マイナス思考は、カゼのウイルスと同じように伝染するだけでなく、どんどん増殖していくのです。
マイナス思考は、ほんの些細なきっかけから発生します。ここで、「自分はセールスに向いていない」と悩んでいたセールスマンのコンサルティングをしたときの話をしましょう。彼は当時大手商社に勤務する有能なセールスマンでした。グループ内のセールスの成績も常にトップクラス。ところが、あるときを境にセールスの成績が急速に下降し、自分では原因が思い当たらず、私に相談に来られたのです。私はその原因を探るために、彼の身の回りに最近起こった出来事を細かく分析しました。すると、2週間ほど前に、成約直前だった新規の大口顧客から注文をキャンセルされ落ち込んでいたことが判明したのです。つまり、そのことが原因でスランプに陥っていたのでした。もっと悪いことに、この一連のショックで気が塞いでしまい、顧客を訪問する回数を意識的に減らしていたことが明らかになったのです。
ここで私はある解決策を提示しました。真っ先に大好きな顧客に会いに行くことを勧めたのです。プラス思考なるには、元気にしてくれる人に会うことです。早速彼は私の提示に従い、10年来のお付き合いがある得意先担当者に会いに行きました。そこで新たな注文を取り、それがきっかけとなり見事に彼は立ち直りました。元通り元気になってセールスに励み、翌月の売り上げでなんと社内のトップに踊り出たのです。
もうおわかりでしょう。私たちに起こる出来事の良し悪しは、私たちの持つ思考パターンによって大きく左右されるのです。だから元気な人には良いことが起こり、塞ぎこんでいる人には悪いことばかり発生するのです。
悪いことが起こったとき、次には必ず良いことが起こると考えてみましょう。そして、気持ちが落ち込んだときは、元気にしてくれる人に会いに行きましょう。そうすれば、簡単にスランプを脱出でき、あなたの周りで良いことがどんどん起こるようになるのです。現代社会で、テレビほど私たちの脳内に影響を及ぼす要素は見当たりません。テレビはいくつかのテクニックで私たちの脳を巧みに操作しているのです。ひとつは「思い込み効果」です。テレビの通信販売の番組があの手この手で新しい商品を視聴者に買わせようと、紹介される商品の長所だけを視聴者の脳に入力していきます。タレントが出てきて「これは凄い。私も買いたい」と商品をほめます。すると私たちの脳内には不思議な思いが発生します。
・タレントのAさんは信用のおける人物だ。
・そのAさんが商品を推奨している。
・だからこの商品は素晴らしいに違いない。
すると視聴者は、衝動的に「素晴らしい商品だ。すぐに購入しよう」と考えてしまいます。私たちの脳は本来論理的にできているはずなのに、このような不思議な三段論法が働いて購入してしまうのです。宅配によって届けられた商は、テレビの画面で観たその商品とずいぶん印象が違うことが多く、ときには商品が届いてガッカリすることもあります。つまり脳は真実だけを見ているのではなく、状況設定を操作すれば簡単に思い込んでしまうのです。
図1の格子模様の中に何かが見えますか?
×状の交差した道のようなものが見えるはずです。しかもその道のようなものはその周辺の白い部分よりももっと白く見えます。しかし、そこに×状の道は存在しません。黒い線で描かれた格子模様があるだけです。脳の思い込みがそうさせているのです。
このように、「思い込み」のパワーは真実を隠してしまうのです。ただし「思い込み」はマイナスに作用するだけではありません。人間の持つこの機能をうまく活用する方法があります。自分に「この仕事ができる」と思い込ませたら、困難な仕事に果敢にチャレンジしてやり遂げてしまえるのです。反対に、同じ仕事でも、「この仕事は私には難しすぎる」と考えてしまうと、その仕事は簡単に挫折してしまいます。つまり、思い込みが行動を支配しているのです。
脳内のメッセージを「できない」から「できる」に変えるだけで信じられないようなことをやってのける。これも人間の有する潜在能力の一つなのです。 |