株式会社 脳力開発研究所|アルファ脳波を指標にしたメンタルトレーニング、脳力開発、ヒーリングなどの研究開発、指導を行っています。

サトルエネルギーと脳波との関係 (3)
サトレエネルギー学会シンポジウム発表論文より抜粋
徳島大学工学部講師
脳力開発研究所志賀一雅
要 旨
鍼灸治療の専門家の協力を得て、施術者と患者との脳波を同時に測定して、治りのいい患者と、治りのよくない患者との脳波応答の違いを調べた。それによると、前回報告したヒーラーによるヒーリングの場合(本誌 Vol.5 No.1 p25-30,2000)と酷似していて、施術前は施術者と患者との脳波には何らの相関もみられないが、触診から鍼をうつ段階で両者の脳波の振幅は小さくなり、大脳新皮質の電気的活性度が低くなっていくように思われる。施術者が鍼をうつ直前に、施術者の脳波に強いスパイク状のアルファ波が観測され、それに同期して、患者の脳波にも同様の強いスパイク状のアルファ波が現れた。これは治りのいい患者の場合で、治りの悪い患者は、施術師の脳波にスパイク状の強いアルファ波が観測されても、患者の脳波には同期した変化は現れない。
このことから鍼灸治療は、鍼や灸の刺激による物理療法というよりも、施術師の脳と患者の脳との間に何らかのよるコミュニケーションが行われているのではないかと思われる。特に患者側の脳の状態が、治癒成績に大きな影響を与えているように思われる。
1. はじめに
古来から鍼灸治療は、治癒のメカニズムが解明されていないものの、治癒成績が良好なために広く施術されてきた。経穴や経絡という概念を導入し、「気」の流れを良くするという説明ではあるが、「気」そのものが観測できないので、現代科学になじまない現象の一つになっている。

患者の皮膚の特定点(つぼ)に鍼や灸をすえて刺激を与えることから、物理療法であると考える専門家もいるが、治療に長く携わっている鍼灸師の多くは、単なる物理療法とは考えていない。

施術に関する高い技術もさることながら、患者や施術師の心理状態、相互の信頼関係が治癒成績に強く影響するということを、臨床の場を通じて体験しているからであろう。とはいえ治癒のメカニズムを単なる心理的な暗示や偽薬(プラセボー)効果でかたずけることはできない何かが存在していることも事実である。

そこで、何かを媒介とした細胞間のコミュニケーション( inter cell communication )や器官同士のコミュニケーション(inter organ communication )が存在していて、送り手の細胞や器官から、受け手の細胞や器官へ情報が伝播して、その情報にも基づいて、受け手側の免疫機構や自然治癒力が活性となり、治癒すると考えた方が理解しやすい。

このような観点から本研究は、情報伝播のメカニズムを解明することを目的として、情報を送る側に対して、いかに効率よく情報を発信させるか、受ける側に対して、いかに最大もらさず情報を受け取るかの条件を探索した。

具体的には、細胞や器官の活動制御中枢である脳に着目し、電気生理的な指標である脳波を測定した。実験(1)は、治癒成績のよい患者と施術師の脳波の関係を調べ、実験(2)では治癒成績の悪い患者と施術師の脳波を計測し、相互の関連を考察した。
2. 実験の概要
実験は、「はりきゅう千歳」の茂木敏雄氏に協力いただき、施術者と患者の脳波を同時に測定した。実際の治療現場での測定であり、患者のプライバシー保護や治療の邪魔にならないよう、写真撮影やビデオ撮影は行わなかったので、実験の様子を示すことができない。

脳脳波測定は、被験者の心理・生理的な負担を軽くし、測定していることが治療の邪魔にならないように心がけた。

具体的には2チャンネルの小型脳波計(日立超LSIデバイス製 Mind NAVI)を、パソコンに接続して、1チャンネルは施術師の脳波、他の1チャンネルは患者の脳波を計測した。脳波の測定部位はそれぞれ左前頭葉(Fp1―A1)と左耳たぶとの間の電位差を計測する単極誘導法を採用した。これは、これまでの多くの実験から、意識と潜在意識との統合された状態を計測するのに適していると判断したためで、後頭葉や側頭葉、頭頂葉の脳波では、視覚刺激や音刺激、皮膚刺激に強く影響され、意識との関連を調べるのに適さないと判断したためである。

脳波計測にはよく臨床脳波計が使われるが、被験者に与える心理・生理的負担が大きく、測定は正確であっても、被験者の心理・生理的な状態が複雑となり、何を測っているのか分からなくなる。しかも、測定装置が備えられているところで実験しなければならず、測定が制限されてしまうので、今回の目的のような実験には適さない。
実験(1)は、治癒成績のよい患者Aと施術師の脳波を同時に計測した。測定は、2人がリラックスしている状態、触診を行いながら鍼をうつまでの時間、鍼をうった瞬間、鍼を抜くまでの時間、灸をすえているときにわけ、それぞれを継続的に行った。

実験(2)は、治癒成績に悪い患者Bと施術師の脳波を、実験(1)と同様の方法で測定した。

3. 実験結果
実験 (1)

写真1に2人の脳波の測定結果を示す。横軸は時間(分)、縦軸はアルファ波(8-12Hz)の強さ(電圧μV)を示す。始めの3分間では、お互いに意識せず心と体をリラックスさせている状態。右へ、触診から鍼をうつまでの時間、鍼をうった瞬間、鍼を抜くまでの時間、灸をすえているときの状態を示す。
これによると、お互いにリラックスしているときにはそれぞれアルファ波が観察されるが、相互には影響を与えている痕跡は見当たらない。ところが、施術師が触診を始め、鍼を打つ部位を特定しようとするにしたがって、施術師のアルファ波は振幅が次第に小さくなる。その影響を受けてか、患者のアルファ波も振幅が小さくなる。

このことは大脳新皮質の電気的な活性度が低くなっていることを表し、無心の状態、無念無想の状態になっているように思われる。

針を刺した瞬間、施術師の脳波にスパイク状の強いアルファ波が観察されたが、ほとんど同時に患者の脳波にも同じようなスパイク状のアルファ波が観察された。より詳細に調べると、鍼灸師のスパイク状のアルファ波が発生してから、少なくも1ms以内の遅れで患者の脳波からもスパイク状のアルファ波が観察された。

このような現象は、体のいろいろな部位に鍼を刺すときや灸をすえているときに多く見られ、鍼を刺すという行為や灸をすえるという行為を通じて、施術師の脳と患者の脳との間に何らかの情報のやり取りがあるのではないかと思われる。

鍼を抜くまでの間、及び灸をしている間、患者の脳波の振幅は小さいままで、無心なのか寝ているのか、ともかく大脳の皮質の部分の電気的な活性度は低くなっていると思われる。
実験(2)
写真2に別の患者Bとの脳波の測定結果を示す。測定の方法は実験(1)とまったく同じで、初めの3分間では、お互いに意識せず心と体をリラックスさせている状態。触診から鍼をうつまで、鍼をうった瞬間、鍼を抜くまでの時間、灸をすえているときの状態を示す。

この場合も、お互いにリラックスしているときにはそれぞれアルファ波が観察されるが、相互には影響を与えている痕跡はやはり見当たらない。そして施術師が触診を始め、鍼を打つ部位を特定しようとするにしたがって、施術師のアルファ波は振幅が次第に小さくなるが、その影響を受けずに患者Bのアルファ波は変わらない。

このことは、施術師の大脳皮質の電気的活性度は低くなっているが、患者Bの大脳新皮質の電気的活性度は高いままであることを示している。つまり、何かを考えていることを意味している。

針を刺した瞬間、施術師の脳波にスパイク状の強いアルファ波が観察されたが、患者Bの脳波は影響を受けず、同期したスパイク状のアルファ波が観察されなかった。

鍼を抜くまでの間、及び灸をしている間、患者の脳波の振幅は相変わらず大きく、大脳の皮質の部分の電気的活性度は高いと思われる。
4. 考察
鍼灸治療は、患者の皮膚の特定部位に鍼や灸による刺激を与えることから、物理療法とも考えられるが、皮膚に電気刺激を与えたときに、脳波に与える影響を調べるのは、誘発電位を計測するといい。
図1はその方法の概略をしましたもので、皮膚に電気的なインパルス(パルス巾 0.1秒 電圧50 mV )を与え、同時に脳波を計測すると、皮膚刺激を与えてからどの位の時間遅れで脳波に反応が出るかを計測することができる。
図2は、その計測結果を示すもので、上段が皮膚に刺激を与えたインパルス波形、下段は脳の誘発電位応答を示す。図2によると、約0.2~0.3 秒の時間遅れのあることがわかる。つまり、皮膚刺激を与えてから0.2~0.3秒後に脳が反応していることを示している。

一方、図3に、実験(1)で2人の脳波がシンクロナイズしたときのアルファ波の応答を示す。

上段が鍼灸師の脳波、下段が患者Aの脳波で、2人の脳波が同期しているところを10データー取り出して電圧の最大値を30μVにして正規化して重ねたもので、少なくも0.1秒以内で同期していることがわかる。

より詳細に分析する必要があるものの、今回の実験からは、鍼や灸などの物理的な刺激によることも治癒に大きな影響を与えるかも知れないが、施術師の脳と患者の能とで直接影響しあう何かが存在していることを示している。

図4に情報の流れを示すが、患者の皮膚に刺激を受けて脳が反応するには0.2~0.3秒ほど時間がかかり、それ以下の反応の場合には、脳と脳と

の直接の情報伝達があることを予測させる。

だとすれば、使う道具こそ違うが、鍼灸、音楽療法、アロマテラピー、ヒーリング、「気」の療法、手かざし、手当て、波動測定器や波動転写機など、すべて人が介在することが必須となる。

人が介在したときに脳と脳とがうまく同期するには、お互いに

1、 心と体をリラックスさせ
2、 無心の境地で脳波の振幅を小さくし
3、 ほんの少し相手の状態を意識して脳波をα~θ波(7.5Hz)に調整し
4、 その後、心と体をあるがままの状態にゆだねて再び脳波の振幅を小さくするという状態にコントロールできれば、うまくお互いの脳の同期が図れるように思われる。

これまで脳波を手がかりにして、スポーツ選手のメンタルトレーニングや社会人の創造性開発、受験生の能力発揮などにかかわってきたが、自らの治癒力を高めて健康の回復を図ることと共通するものが多い。自分を信頼し、人を信頼する心が力を発揮する必要条件のようだ。

参考文献
1) Introduction to Quantitative EEG and Neuro-feedback James R. Evans, Academic Press
2) Getting Well Again, Carl O. Simonton, James Creighton, Boston
3) Executive ESP, Douglas Dean and John Miharasky, Prentice Hall London
4) The Right Brain, Thomas R. Blakeslee, Anchor Press, New York
5) 脳力開発の成功例 志賀一雅 朝日出版
6) 潜在脳 志賀一雅 ダイヤモンド社
7) 前頭葉α波のフィードバック増強 志賀一雅 バイオフィードバック学会誌
(Ⅰ)バイオフィードバック研究Vol.9、1-4、1982
(Ⅱ)バイオフィードバック研究Vol.9、5-9、1982
(Ⅲ) バイオフィードバック研究Vol.10、51-53、1983
8) アルファ脳波の活用 志賀一雅 電子情報通信学会誌、Vol. ET91-98、49-54、1991
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